【連載】「農業は教わるのでなく体得するもの」農薬・肥料を使わないお米を作り続けて26年、家族で営む池内農園@滋賀県東近江市(2)

今回は、生産者さんへのインタビューレポートをお届けします。
訪れたのは、滋賀県東近江市の田園風景が広がる自然豊かな場所で、農薬・肥料を使わない自然農法でお米を生産されている池内農園。滋賀県内で農業に携わる女性を応援する”しが農業女子100人プロジェクト”のメンバーとして活動され、農業を始めて8年目になる池内桃子さん、そして桃子さんの師匠であるお母さんにお話を伺いました。

連載1回目では、桃子さんが農業に携わるまでの道のりと、師匠であるお母さんが農業を始めたきっかけから現在までの歩みをお届けしました。連載2回目は、慣行農業を20年されてきたお母さんが自然農法と出会ったきっかけ、自然農法での学びについてお話を伺います。

農薬・肥料を使わない、自然農法との出会い

➖自然農法を始められたきっかけを教えていただけますか?

お母さん:
それまで慣行農法で20年やっていましたが、ある時、農薬も肥料も一切使わない自然農法に出会いました。自然農法を始めたのは不思議なご縁なんです。主人と結婚して子供ができて、田んぼが面白くなってどんどん広げました。すると平成4年に主人が体を悪くしまして、これからどうしようかと思っていたとき、ある方から「農薬・肥料を使わない自然農法をやりたいんだけど、一枚くらい貸せる田んぼはないか?」と言われました。これが一番最初の始まりです。もしあの日がなかったら、自然農法はしていないんです。

1年目は自然農法をしたいという方が我が家の田んぼで作って下さいました。2年目からは他の田んぼも少しずつ自然農法に切り替え、その後から全て自然農法にしたんです。

➖慣行農法から自然農法に切り替えられたとき、抵抗はありませんでしたか?

お母さん:
私は簡単に切り替えられました。もともと農薬を使うと、顔がパンパンになるんです。薬にとても弱かったので、農薬はあまりやっていませんでした。肥料も人が使うよりもとても少なかったです。必要なところだけ使うというやり方だったので、自然農法に対する抵抗は何もありませんでした。

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自然農法で26年目になるお米。風になびく稲穂がとっても美しく印象的でした。

お母さん:
私は自然農法をして26年が経ちますが、いつも”1年生”だと思っています。「何か新しいことを」と思い、考えながらやってはいますが、気象条件は毎年違うし予測できない。毎年1年生、その繰り返しです。自然農法は本当に深いんです。

➖実際に自然農法をしてみて、最初の頃はどうでしたか?

お母さん:
とにかく除草は大変でした。稲か草か分からないんです。当時は種に肥毒が残っていたので、種を作っていくまでが大変。最初の1〜2年はまだ少し作物ができましたが、3年目から5年目くらいはドン底でした。

➖肥毒が残っていると、どういう状態になるんですか?

お母さん:
肥毒が残っていると何も(作物が)出来ないんです。今まで肥料を使ってきた分「肥料が欲しい欲しい」の状態。人間でも薬を飲み続けると薬が欲しい体になってしまうように、肥料がないと栄養失調になってしまうんです。本当に見てられないような状態でした。今でこそ自然農法でも綺麗な田んぼが出来るようになりましたが、当時は逆でした。

ここ3年くらい、近所のおじさんに「あんたの時代になったなぁ」と言われたんです。

➖それは嬉しい言葉ですね。周りの方は見ていて下さったんですね。

お母さん:
22歳で田んぼをするようになった頃からずっと見ていて下さって、自然農法を始めて田んぼがひどい状態になったときも何も言わずに見守って下さいました。それどころか、暑い中を一人で作業していたら、近所のおじさんが「嫁さんには内緒やけど」って缶ジュースを買って来てくれたり、声を掛けて下さったり、そういう方が何人かいました。ずっと見守って下さっていたからこそ、今があるんです。本当にありがたいです。

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他で自然農法をされている方から、「近所の慣行農家さんから、何か言われる」「おかしな目で見られる」とか聞きますが、私はそう言うことは一切ありませんでした。

それでも、実際には色々なことがありましたね。最初の頃、京都からバスでお手伝いに来て下さった方々があったんですが、その方達がお寺にトイレを借りに行ったり、近所の玉ねぎをぶら下げている家に「おばちゃんこの玉ねぎちょうだい」って言ったり(笑)今でこそ笑い話ですが、後から聞いたら色んなことがあったみたいです。本当に迷惑だったに違いないですが、何も言わず見守って下さいました。

桃子さん:
22歳からの下積みがあったこともあると思います。

お母さん:
京都から22歳で戻って来て、姉からバトンタッチした頃は、近所では「あんな小娘に何が出来る」と言われていたようです。当時としてはハイカラな格好して、モンペなんて嫌で履きませんでしたから。「こんな小娘がどうするんや」って。

でも、ある時こんなことがありました。昔は今のような大きい田んぼではなく、土地改良した小さい田んぼがいくつもあったんです。お母さんに「水見て来て」と言われて、私はまず水口を確認して、それから水が漏れていないかとか、グルーっと田んぼを一周回って全部見ていたんです。

それを見ていた近所のおじちゃんに「さすが、りょうさん(父)の娘やな」って言われたんです。普通は水が入っているか水口だけ見て帰るのに、一周回って全部見て行った。これは親がしていた姿を見ていたんだなって。DNAがあるんですね。

桃子さん:
でも、私は初めて母に「水見て来て」と言われたとき、水が入っていることだけ確認して、帰って来て「水入ってた」って言うと「アホか」って言われました(笑)

お母さん:
そやねん。DNA途絶えてんねん(笑)

桃子さん:
そんなん何も言われてないし知らんと思って(笑)そんなこともありました。

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農業は教わるのではなく体得するもの

➖お母さんとしては、「背中を見て学べ」という姿勢なんですね。

お母さん:
そうなんです。喋ってくれと言われますが、口では何も言いません。見て覚えるものです。教えて分かるものじゃなく、体得するものだと思ってます。

桃子さん:
でも、あんまりにも言葉が足りないので、自分なりに一生懸命やった後に「こんなんやない」とか後で言われると、「そんなん始めから言ってや」って最初の頃はずっと思ってました(笑)

➖それは、「失敗してでも、まずやってみなさい」ということなんでしょうか?

お母さん:
そうです。まずは自分でやってみないと、苦労も何も分からないですから。

この頃は、自然農法されている若い人たちは自分から周りに聞かないですよね。隣近所の畑しているおばちゃんも大ベテランですよ。「こういう時はどうしたらいいか?」って聞いたらいいんです。「自然農法が絶対だ、慣行農法は全然駄目や」って、頭が硬い。自分から周りの人に聞くと色々と教えてくれますし、そのあとも気にかけて下さいます。

➖周りの人に声を掛けて、聞くことによって、色々と勉強になるんですね。

お母さん:
そうなんです。自然農法と慣行農法との違いはあっても、ためになることが沢山あります。

書くことで自分のものになる

お母さん:
もう一つ言っていることは、日記を書くことです。「何月何日、種を蒔いた」とか、細かく書く。それをずっと続けていると、「去年と比べて遅かったな」とか、色々と分かります。そして「今頃をこれをして、次はこれをして…」と言う風に、やるべきことが分かります。周りの人に教えてもらったことも、何回も聞くんではなくて、書いておくんです。

そうすれば積み重なって、自分のものになっていきます。書かないと何年経っても分からない1年生になってしまう。記憶というのは曖昧です。

今年も田んぼの穂が出揃いましたが、去年の日記を見ると、日本晴(※1)が23日、滋賀羽二重餅(※2)が28日、滋賀旭(※3)が30日でした。世間では「今年の出穂は早い」と言われていましたが、うちは去年と変わりません。そういうのも書いておくから分かるんです。

(次回に続く)

➖【連載】「農業は教わるのでなく体得するもの」農薬・肥料を使わないお米を作り続けて26年、家族で営む池内農園@滋賀県東近江市のインタビューレポート。
第二回目は、桃子さんの師匠であるお母さんの自然農法との出会いと、自然農法に向き合う姿勢を教えていただきました。続編もお楽しみに!

【プロフィール】池内桃子さん

農家生まれ、農家育ち。農薬・肥料を使わない自然農法に携わり8年目。フードコーディネーターとして素材の味を生かしたレシピを考案し、ケータリングや料理教室などを通して素材の旨味を発信。”しが農業女子100人プロジェクト”に参画し、滋賀県内で農業に携わる女性をサポートする活動に携わっている。


ブログ 『Momo’s Kitchen』 しが農業女子100人プロジェクト

(※1) 日本晴
昭和後期に最も多く栽培されたお米で、日本における米の有名銘柄のひとつ。すっきりとした甘みのある味わいが人気で、滋賀県を中心に生産されている。

(※2) 滋賀羽二重餅
粘り、伸び、コシがあり、きめも非常に細かく、京都・大阪の和菓子の銘店でも使用されている最高品質のブランドもち米。

(※3) 滋賀旭
明治時代に滋賀県で生まれた品種で、一昔前は「お米と言えば旭」と言われる程、味・人気共に評判の高いお米。

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