今回は、生産者さんへのインタビューレポートをお届けします。
訪れたのは、滋賀県東近江市の田園風景が広がる自然豊かな場所で、無肥料・無農薬の自然農法でお米を生産されている池内農園。滋賀県内で農業に携わる女性を応援する”しが農業女子100人プロジェクト”のメンバーとして活動され、農業を始めて8年目になる池内桃子さん、そして桃子さんの師匠であるお母さんにお話を伺いました。
前回までは、桃子さんが農業に携わるまでの道のりと、師匠であるお母さんの歩みをお届けしました。連載第3回目は、桃子さんの自然農法を通しての学びと、これからの農業についての想いを聞かせていただきました。
お米も人間も同じ”命”
➖農業を続けて来られてのご苦労や嬉しかったことなど、一番心に残っていることはありますか?
桃子さん:
一番というのは決められないですが、初めて一年間を通して稲を育てたときのことは心に残っています。
小さな苗からだんだん成長してくると、そのうち稲のちょうどお腹のあたりが膨れてくるんです。そして花を咲かせて、実になって…というその一瞬一瞬を初めて見たときに、本当に感動しました。お米も人間と同じやなと。命が宿るときはお腹が膨れて、だんだん大きくなって、実が実っていく。見たことがない光景でした。それから、お米を”命”として思うようになりました。
桃子さん:
そして、作業としてはもちろん大変なんですが、日々家族と一緒に作業ができるというのは本当に幸せでありがたいことだと実感しています。どれだけ大変な作業をしても朝になると体は不思議と起きるし、作業があるから家族みんなが一緒に力を合わせることができるんです。
お母さん:
子供たちが近くにいて、協力してくれることはありがたいです。この頃はそこに旦那や子供が付いてきたり、だんだん賑やかになってきました。
桃子さん:
兄は働きに行っていますが、農繁期には必ず手伝ってくれます。やっぱり一番力があるし、小さい頃から手伝ってきたということもあって、どんな人が手伝いに来てくれるよりも一番効率よく作業ができます。
そして妹はよく気が利くんです。妹とは家が3分の距離なので、家の鍵を渡しておきます。私が朝から夕方まで作業をして家に帰ったら、洗濯物が取り込まれてピチッと畳まれていて、おまけに晩御飯のおかずまで置いてあったりして。すごく気が利いて協力してくれます。兄弟3人が本当に力を合わせられるのが農繁期です。
お母さん:
初めは、この子(桃子さん)はお兄ちゃんが作業できるなんて知らないもんだから「お母さん、お兄ちゃんが一人で作業してるけど大丈夫なん?」って言ってきて、「お前よりしっかり出来るわ」って言ったりして(笑)
機械化農業で、農家と家族の在り方が変化
➖ご家族で作業ができるというのは素晴らしいです。今の一般的な農業の実情は、後継者不足や、専業では成り立たず兼業農家になったなど、家族の在り方が崩れつつあることを耳にします。
お母さん:
元々は機械化農業が始まったことが原因で、農家が変わってきたと思います。今でも90歳近いおじいちゃんも自分で機械に乗って作業する人がいますね。機械は便利ですが、人の手がいらなくなります。そうすると子供たちは手伝う必要がなくなり、結局何も出来なくなってしまいます。いざその子供たちが60歳、70歳になって農業をしようとしたって、やり方がわからないんです。みんなの手を必要とする昔の農業の方が良かったと私は思います。
私たちのしている自然農法では、機械だけではなくどうしても人の手が必要なんです。昔の農家のように猫の手も借りたいような状況だからこそ、家族で一緒に作業が出来るんです。
これからの農業で生き残る道
桃子さん:
私は、これ以上規模を大きくしたいと思わないんです。それよりも田んぼの綺麗さを保ちたい。女性ならではの目線ということもありますが、やっぱり綺麗な田んぼでありたいし、守り続けていきたい。これ以上大きくするよりも、誰が見ても「綺麗だな」「こんな田んぼなら自然農法をやってみたいな」と思う田んぼをしていきたいです。
桃子さん:
一方で、これからの農業は本当の大型農家かこだわりを持つ農家か、どちらかしか生きていけない時代になっています。
私が活動しているしが農業女子100人プロジェクト(※1) のメンバーの中にも、大型農家はいません。となると、農薬は必然的に使っていない人が多い。これから農業でやっていくには、いかに価値を付けていくかという時代であると思います。
そして今後は、自分で食べるものは自分で作るという人をもっと増やさないと、日本の農業は10年後20年後は確実に無くなっていくに違いないと確信しています。
農家の高齢化も深刻です。普段田んぼにいてもお母さんの次に若いのは私で、時には私以外は誰も田んぼにいないというときもあります。「どうしたんだろう?」と思うと、その日は老人会で近所の人はみんな出掛けていたんです(笑)
夏の暑い日は、おじいちゃんおばあちゃんは外に出ませんし、あの広い田んぼに私ひとりという時もあります。あるとき私が草取りをしていると「あんた若いのにようやるなぁ」と声を掛けられて(笑)これからの農業はどうなっていくんだろうと思います。
(次回に続く)
➖【連載】「お米も人間も同じ”命”」農薬・肥料を使わないお米を作り続けて26年、家族で営む池内農園@滋賀県東近江市のインタビューレポート。
第三回目は、自然農法を通しての学びや感動、農業に向き合う姿勢についてお伺いしました。続編もお楽しみに!
【プロフィール】池内桃子さん
農家生まれ、農家育ち。無肥料・無農薬の自然農法に携わり8年目。フードコーディネーターとして素材の味を生かしたレシピを考案し、ケータリングや料理教室などを通して素材の旨味を発信。”しが農業女子100人プロジェクト”に参画し、滋賀県内で農業に携わる女性をサポートする活動に携わっている。
(※1) しが農業女子100人プロジェクト
滋賀の女性農業者ネットワーク。栽培、商品開発、マーケティング等、あらゆる分野で協力している。農業女子自らが農業を志す女性を支援し、メンバー100人を目指して活動中。