今回は、生産者さんへのインタビューレポートをお届けします。
訪れたのは、滋賀県東近江市の田園風景が広がる自然豊かな場所で、無肥料・無農薬の自然農法でお米を生産されている池内農園。滋賀県内で農業に携わる女性を応援する”しが農業女子100人プロジェクト”のメンバーとして活動され、農業を始めて8年目になる池内桃子さん、そして桃子さんの師匠であるお母さんにお話を伺いました。
前回までは、桃子さんの自然農法を通しての学びと、これからの農業についての想いをお届けしました。連載第4回目は、桃子さんの現在の活動や、次世代に農業や食文化を発信する大切さについて聞かせていただきます。
農業女子の仲間を増やしたい
➖桃子さんが参加されている「しが農業女子100人プロジェクト」(※1)について、始めたきっかけを教えていただけますか?
桃子さん:
きっかけは、「農業仲間が欲しい」という想いでした。滋賀県には男性の農家さんは多くいらっしゃいますが、女性は数人しか知りませんでした。少しずつ声をかけていくうちに、5〜6人が集まって女子会をするようになったんです。女子会といっても、話すことは虫の話とか「長靴なに使ってる?」とか、普通の女子会じゃない。”農業女子会”です(笑)
最初は集まって話をするだけでしたが、ある一人の子が「組織として立ち上げたら、付加価値が付くんじゃないか」と発案し、任意団体“しが農業女子100人プロジェクト”として緩く活動を始めました。
例えば「これは池内農園の池内米」と言うより、「滋賀県の農業女子が手をかけて作ったお米」と言うことで付加価値が上がって、だんだん注目されるようになりました。昨年は滋賀県からバックアップの話があり、いよいよしっかりと団体としてスタートしたところです。
桃子さん:
仲間がいることの良い点は、悩みを相談できることです。私は母と一緒にやっているので話ができますが、新規就農や個人でやっている子は相談相手がいません。「どこに聞いたらいいのか」「売り先をどうやって確保したらいいのか」など、困った時に相談できる仲間がいることは、農業を続けていくうえでとても大切です。
他にも、何人かの生産物を合わせてコラボ商品を提案したり、それによって新しい販売経路が確保できたり、一緒にイベントに出展し発信する力がついたりと、どんどん展開しています。「あの子が頑張ってるから私も頑張ろう」と思える仲間がいることは本当に心強いです。
「しが農業女子100人プロジェクト」開始当初の参加対象は「経営者、または自分が中心となって農業をしていること」としていましたが、それでは100人集まらないということで、枠を広げて「農業に携わっている女子」を対象としました。主に農作業を行っている人は正会員、手伝っている人はサポーターなど区分を定め、会費を募って活動しています。また、組織としての規約を作ったり、ホームページや広報用のパンフレットを作ったりと、団体としての体制も整いました。県からのバックアップは数年なので、この先も継続して活動できるように、自立することを目指しています。
お母さん:
なかなかやり手です。“男”ですよ。
桃子さん:
メンバー全員”男”です(笑)私もなかなか男っぽい方だと思いますが、女子と思えない頼もしい方がたくさんいます。
➖素晴らしい活動ですね。自然農法という分野では、そういった外部的な活動や、ビジネス面を考えて活動されている方はまだ少ないように思います。
桃子さん:
自然農法において”ビジネス”という面はまだまだこれからだと思います。また、それ以前に外部的にどう広げて、どう展開していくかを考えることが必要だと思っています。
お母さん:
自分たちが自然農法で作物を作るだけでなく”もっと外部に発信していこう“と、そういう時代にやっと変わってきたんです。私たちの時代は土作りや種作りから始まって、少しずつきちんとした作物が作れるようになって、今があります。自然農法の展開は、これからの活動にかかっていると思います。
桃子さん:
池内農園では、ありがたいことに継続して買って下さる方が多く、新規での購入のお問い合わせには対応しきれない状況です。今後は少しずつですが、新規の販売やマルシェ出展など、外部発信用を確保して、より広げていけるよう取り組んでいます。
“生産者”と”消費者”の繋ぎ役
➖現在は、食生活が昔と大きく変わっています。これからの若い世代に、食の大切さを伝えるにはどうしたら良いでしょうか。
お母さん:
今の子は、まずお米を食べていないと感じますね。
桃子さん:
都会の方は特にそうだと思います。以前、“日本食べる通信リーグ”(※2)の主催者である高橋博之さんにお会いした際、興味深いお話を聞きました。
東京では、多くの人にとって“生産者”という存在がとても薄いということです。例えば、少しでも野菜の値段が上がると「もうこの野菜は買わない」と、選択肢から外れます。それは、その先にいる生産者のことが頭の中にないからだと。“生産者”と”消費者”が完全に分断されているという現状を改めて感じました。
桃子さん:
高橋さんは岩手の出身ですが、震災のとき全国から来られたボランティアの方と触れ合う中でも、大きな気付きがあったそうです。東北は農業地帯なので、ボランティアを通して農家さんに出会って「あ、農家さんって本当にいるんだ」と初めて気が付いた都会の若者も多かったとか。
特に、ITや金融関係のビジネスマンは毎日とにかく頭を使っていて、食事に気を配る余裕がない。中には、ご飯ではなくゼリーやサプリで食事を済ませる人もいます。震災ボランティアを通して生産者と触れ合い、逆に気付きを得た、“生きる意味”を考えるきっかけになったという方がたくさんいらっしゃったそうです。
➖確かに、都会で生活する人にとって”生産者”を意識する機会は少ないかもしれません。
桃子さん:
私たち農家は、食べ物を作ることに当たり前のように一生懸命になっているけれど、それを知らない人がたくさんいるということを初めて実感しました。現代の社会において、生産者と消費者の繋がりを作る”繋ぎ役”がとても重要だと感じます。でも、それは私たち生産者が担うことは難しい。生産者は、生産すること、現場のことで手一杯です。それを周りの方に伝える、発信してくださる方が本当に必要なんです。
(次回に続く)
➖【連載】「滋賀の農業女子100人を目指して」農薬・肥料を使わないお米を作り続けて26年、家族で営む池内農園@滋賀県東近江市(4)のインタビューレポート。
第4回目は、桃子さんの現在の活動や、次世代に農業や食文化を発信する大切さについてお伺いしました。続編もお楽しみに!
【プロフィール】池内桃子さん
農家生まれ、農家育ち。無肥料・無農薬の自然農法に携わり8年目。フードコーディネーターとして素材の味を生かしたレシピを考案し、ケータリングや料理教室などを通して素材の旨味を発信。”しが農業女子100人プロジェクト”に参画し、滋賀県内で農業に携わる女性をサポートする活動に携わっている。
(※1) しが農業女子100人プロジェクト
滋賀の女性農業者ネットワーク。栽培、商品開発、マーケティング等、あらゆる分野で協力している。農業女子自らが農業を志す女性を支援し、メンバー100人を目指して活動中。
(※2) 日本食べる通信リーグ
食のつくり手を特集した情報誌と、彼らが収穫した食べ物をセットで消費者に届ける、食べもの付き情報誌「食べる通信」。2013年7月に東北から始まり、現在は北海道から沖縄まで37の団体が日本食べる通信リーグに加盟。つくる人と食べる人をつなぐことで、地域や社会の課題を解決することを目指し活動中。