【連載・最終回】生産者さんへのインタビューレポート。
訪れたのは、滋賀県東近江市の田園風景が広がる自然豊かな場所で、無肥料・無農薬の自然農法でお米を生産されている池内農園。滋賀県内で農業に携わる女性を応援する”しが農業女子100人プロジェクト”のメンバーとして活動され、農業を始めて8年目になる池内桃子さん、そして桃子さんの師匠であるお母さんにお話を伺いました。
前回までは、桃子さんの現在の活動や、次世代に農業を発信する大切さをお届けしました。連載最後となる第5回目は、今後の目標やこれからの農業への想いを聞かせていただきます。
農業の価値、面白さを知ってもらいたい
桃子さん:
農業を次世代へ繋いでいくために、まずは農業の素晴らしさ、そして自然農法の価値をもっと知ってもらいたいです。
一般的に、農業は「辛い、苦しい、大変」というイメージが強く根付いていて、確かに自然農法をするうえでの苦労はたくさんあります。でも、そんな苦労話ばかり聞いたら誰も農業の世界に入ろうと思えない。
結局、人は”面白い・楽しい”ところにしか寄ってきません。「きついから助けましょう、生産者をサポートしましょう」という発信ではなく、もっと自然農法の価値や面白さを発信することが大切だと思っています。
まずは、少しでも興味のある人へ伝える
➖都会のビジネスマンやとくに若い世代では、食に興味がある人は本当に少ないと感じます。どうしたら、若い世代が食に興味を持ってくれるでしょうか。
桃子さん:
少しでも食に興味がある人に伝えていく、そこから始めることが大切だと思います。
実際のところ、都会に限ったことはではないと感じています。私は農閑期にアパレル関係の仕事もしていますが、お昼休みにカップラーメンやお菓子を食べる人が本当に多くて、おむすびすら買う人も少ない。その光景を見るたび「なんという時代なんだ」と驚かされます。でも、この現状を嘆いても仕方ないですし、今すぐに改善することは出来ません。わからない人に伝えていくのではなく、まずは“わかる人から伝えていく”しかない。
私がターゲット層として注目しているのは、”子連れの若いお母さん“です。池内農園では、何人かの若いお母さんから「マイ田んぼ(※1)をしたい」という要望があり、我が家の田んぼでお米作りを始めています。まずは、安全な食を求めるお母さんたちから、徐々に自然農法を知る人が増えたらと思い、活動しています。
➖それは、どういった経緯で始めたんですか?
桃子さん:
私の友達から「やりたい」と言われたことがきっかけで、そこからまた知り合いに繋がって、今は5〜6家族くらいで活動しています。実際はお世話の手もかかりますし、私たちの作業量を考えてもプラスなことばかりではないです。でもやっぱり、少しでも興味のある人たちがお米作りにゼロから携わってくれる、意識を持ってくれることは本当に嬉しい。やりたいと言ってくれる人がいる限りは、続けていこうと思っています。
また、そういう人は積極的に情報を発信してくれます。そこからまた繋がって「自然農法のお米を買いたい」と問い合わせが来たり、意識の高い人の周りには、意識の高い人が寄って来るんです。
自然農法を、次の世代へ残したい
➖これからの目標はありますか?
お母さん:
私としては、自然農法をしてくれる次世代が増えること。目標というか、お願いですね(笑)。ここ滋賀でもお年寄りが多くて、手が足りず自然農法を続けられなくなった方もいます。
そんな中で私がなぜ続けてきたかと聞かれたら、とにかくもう「愛しい」、その一言です。数え切れない苦労もあったけれど、自然農法してきた田んぼが本当に愛しいんです。「もう出来ない」と言うのは簡単です。体は老化していく一方だけど、もう愛しくて手放せない。せっかくここまで続けて来た自然農法を、なんとか次世代に引き継いで、この先もずっと残していって欲しいと心から願います。
➖桃子さんのような次世代の生産者を増やすには、どうしたらいいでしょう?
桃子さん:
自然農法は「辛い、厳しい、大変」というイメージから、「かっこいい生き方」というイメージにできたらいいですね。印象の問題は大きいと思います。
現代社会ではメディアの影響もあり、誰もが裕福な生活に憧れ、物質的な華やかさを求める価値観が根付いています。そんな生活が当たり前の世の中で育った若者に、自然農法の素晴らしさを知ってもらうにはどうしたらいいのか、難しい課題です。
また、経済的な面でも「自然農法は儲からない」「苦労しにいくもの」という印象がありますよね。でもこれからの自然農法のあり方を考えると、少なからず収入を得て生活をするところまで持っていくことは大切だと思います。
私の知り合いに、“弥平唐辛子”という滋賀の固有種の野菜を育てて、地元の湖南市を活性化しようと会社を立ち上げた方たちがいます。元々は都会でキャリアウーマンをしていた女の子が滋賀に帰って来て、「地元のために何ができるか」と考え、夏場に収穫した唐辛子から色々な加工品を作って売り出し、事業として成功しています。そういったアイディアで、自然農法を変えていく若い人がいても良いと思います。
目標は「続けていく」こと
➖桃子さんのこれからの目標はありますか?
桃子さん:
これからも”続けていく”ことです。
自然農法をやり始めた頃の私は、もう大変だから「田んぼを減らして」と言っていました。でも実際にやっていくうち、減らすことは簡単だけど、続けることは難しいことだと思ったんです。
母がここまで続けてきた自然農法を、私の代で終わらせたくない。一人でも多くの人に伝えて、実際にやってみて欲しい。生産者とまではいかなくとも、自然農法に携わって一緒に活動してくれる仲間がもっともっと欲しいです。
➖「しが農業女子100人プロジェクト」の、今後の広がりや展望はありますか?
桃子さん:
今後も活動を続けて、農業をやってみたい女子がいたら「農業するなら滋賀がいいらしいよ」という風に広がっていったら嬉しいです。一人でも多く農法仲間を増やし、これからも自然農法を続けていきたいです。
➖親子二代に渡り、農薬や肥料を使用しない自然農法を続ける池内農園。たくさんの出会いと家族の絆の中で守られてきた自然農法を、次世代へ繋げたいという池内さん親子のまっすぐな想いを聞かせていただきました。自然のままに作物を育てるのは手間暇や苦労が多い分、自然からの恵みや愛情もまた大きく、食べる人を元気にし、心を癒やす作物が実るのかもしれません。一人でも多くの人が、生産者の想い、食の大切さに気づき、自分の口に入るものは自分で選ぶ次世代が増えて欲しいと強く感じました。まずは自分の食卓に意識を持つことから始めてみませんか?
【プロフィール】池内桃子さん
農家生まれ、農家育ち。無肥料・無農薬の自然農法に携わり8年目。フードコーディネーターとして素材の味を生かしたレシピを考案し、ケータリングや料理教室などを通して素材の旨味を発信。”しが農業女子100人プロジェクト”に参画し、滋賀県内で農業に携わる女性をサポートする活動に携わっている。
(※1) マイ田んぼ
田んぼを貸し出し、田植え、除草、収穫などお米作りを体験してもらう活動。池内農園では現在5〜6家族が参加。